優勝トロフィーを掲げる尾崎将司（ＪＧＡホームページより転載）

2度仕切り直したウイニングパット。尾崎将司が14年ぶりＶ

　「こういう歴史を誇る手づくりのいいコースはトライのしがいがある」（スポーツニッポン紙より）と話すのは初日4アンダーで単独首位に立った尾崎将司だ。1988（昭和63）年の会場は東京ゴルフ倶楽部（6923ヤード、パー71）。1913（大正2）年に結成され、駒沢（東京都）、朝霞（埼玉県）を経て現在の狭山（埼玉県）に移転したのは1940（昭和15）年のこと。駒沢、朝霞時代を含めて日本オープンの開催はこの時が6回目だった。
　米ツアーからはるばる参戦してきたトム・カイトは1オーバー、72で5位につけた。
　2日目は前年覇者の青木功が69、タイトル奪回に燃える中嶋（当時の登録名は中島）常幸が68で回って共に通算1オーバーの4位に浮上してきた。尾崎は73と小休止。それでも通算2アンダーは単独首位のままだった。
　時折雨が降った3日目、71にまとめた中嶋が通算1オーバーで単独首位に躍り出た。尾崎は終盤崩れ、吉村金八と並んで1打差の2位。青木は2つスコアを落とし、友利勝良と共に2打差4位で3日目を終えた。
　最終日は中嶋、尾崎、吉村が最終組、青木がひとつ前で回った。最高峰のタイトルをかけ、激しく争ったのはＡＯＮの3人だった。
　前半、中嶋と尾崎はバーディーが奪えないままジリジリとスコアを落とす。一方で青木は3、7番でバーディーを奪って首位に立った。
　その青木も9、10番ボギー。10番で初バーディーを決めた中嶋が通算2オーバーで首位を奪い返した。
　鳴りを潜めていた尾崎に初バーディーが生まれたのは13番だった。それでも中嶋とはまだ2打差あった。
　498ヤードと長い15番パー4、尾崎は1打目を左の林に打ち込んだ。押すべきか、引くべきか。林の中を行ったり来たりしていた尾崎が選んだのは横のバンカーに出すことだった。グッと我慢して、ボギーで抑える。この判断が流れを引き寄せた。
　15番をボギーとした中嶋は16番で1打目を右ラフに入れたことからダブルボギーを叩く。一瞬、単独首位に立った青木が17番でボギー。ＡＯＮと友利が通算5オーバーで並んだ。
　ここから抜け出したのが尾崎だ。17番で10ｍを超えるバーディーパットを決めて拳を握りしめた。
　タフな18番パー4、青木はパーで上がって通算5オーバーで先にホールアウト。友利はボギーで脱落した。
　最終組の18番、右のラフに入れた中嶋は2打目を刻み、6ｍを残したパーパットを意地でねじ込んだ。
　そして尾崎。完璧なドライバーショットを生かして2オンに成功。バーディーパットを70～80ｃｍに寄せた。
　上りの、それほど難しいラインではなかった。だが、尾崎は構えを解き、右手を振った。手が動かなかったのだ。
　長い低迷期を抜け出していたとはいえ、日本オープンはやはり別格である。
　再び構えるが手が動かない。再度アドレスを外し、大きく息を吐いた。
　3度目、ようやくストロークができた。ボールがカップに沈んだ瞬間、尾崎は一瞬安堵の表情を浮かべ、次に右手でガッツポーズをつくった。
　グリーン上でのインタビュー、尾崎は「これがジャパンオープンでしょうね」と口にした。タイトルの重みを知っているからこその仕切り直しだった。
　14年ぶりの日本オープン2勝目は完全復活を告げる号砲となった。
（文責・宮井善一）

プロフィル

尾崎将司（おざき・まさし）
1947（昭和22）年1月24日生まれ、徳島県出身。徳島海南高校時代は野球部のエースとして選抜高校野球大会を制し、西鉄ライオンズに入団。実働3年で退団してプロゴルファーを目指した。プロデビュー2年目の1971年日本プロを皮切りに前人未踏の通算113勝（海外1勝を含む。1973年ツアー制度施行後は94勝）を挙げ、賞金王は計12回。2010年に世界ゴルフ殿堂入り。

第53回日本オープンゴルフ選手権

参加者数　131名（アマ24名）