第10回日本オープンゴルフ選手権(1937年)
2022.05.30
ゴルフドム1937年7月号(日本ゴルフ協会所蔵)
台湾プロゴルフのパイオニア陳清水が初制覇
この年の会場は、1931年開場の神奈川・相模コース(相模カンツリー倶楽部)で、6月3~5日の開催だった。6621ヤード、パー73に設定され、ゴルフドム誌1937年7月号によると、コースの設計者赤星六郎がティーマークからピンの切り方、芝の刈り方などのコースセッティングすべてを指示したという。「世話役」と呼ばれていたが、今でいうとトーナメントディレクターのような役割が誕生していたことになる。試合は予選ラウンド18ホール2日間、決勝ラウンド36ホールで行われた。ゴルフドム誌が「オープン観戦記」として同コースの春日井薫氏が詳細を記しているので、その中から抜粋(現代語)していこう。
第1日、首位に立ったのは陳清水だった。大会前に行われたプロ月例の際に自らが出したコース記録69と同スコアで回った。観戦記筆者は優勝候補筆頭の浅見緑蔵の組についていたのでプレー内容の記載はなかった。島村祐正71、浅見72と続いていた。
第2日、陳は9番パー5で第2打をバンカーに入れ、次もグリーンに届かず、ボギーにして流れを悪くしたそうだ。インに入っても4ボギーで77と落とし、通算146のパープレーとなった。浅見は好調で、アウトをパープレー、インに入って12、18番でバーディーを奪うなどパープレー73で回り、通算1アンダー145として首位に立った。
前年から決勝ラウンドに進むのは予選ラウンド40位タイまでとなっており、37位43人が進んだ。
最終日は36ホール。陳は前日がうそのような快進撃をする。前日失敗した9番で右のグリーンエッジから8~10ヤードほどを直接入れてイーグルを奪った。首位浅見より前の組で出ていたが、11,12番連続バーディーとしたときに、浅見がアウト42という情報がコース内を駆け巡り、陳の耳にも入ったという。17番で7,8間(約14メートル)のイーグルパットを決めるなど、午前はアウト35、イン33の68で、コース記録を自ら更新し、首位に返り咲く。
そこからは陳の独走で、午後は70で回り、最終日2ラウンドを8アンダーで通算284。浅見も午後は盛り返したが、7打差がついて、陳の日本オープン初制覇が決まった。6月6日付東京日日新聞には「陳は意の如きプレーをみせ、特にドライバーは常に300ヤード飛ばし、さらにセカンドショットよく、パットの調子も出て神業に入るプレーをした」と記述している。
ゴルフドム誌に「オープン優勝の感想」として陳の談話が掲載されている。
「一昨年から2回渡米させていただき、試合の経験を豊富にし、大きな精神修養をすることができましたのは私にとって何よりにも優る教訓であり、同時に幸運であったとしみじみ感じています。冬の間が帰省(台湾)し、不得手だったショートゲームを専心にやりました。良好なコースコンディションと天候に恵まれ、最初から自分で出せるだけのスコアを出そうという気持ちでプレーを続けました。ゴルフを始めて11年になります。その間の進歩は実に遅々たるもので自らを省みて恥ずかしいぐらいです。以前は試合の前になってから練習する傾向がありましたが、近頃では普段から練習せねばならぬという気持ちになってきました。自分のゴルフを磨いていくには不断の練習による以外方法はないことが幾分分かってきたように思います。今回、思いがけない名誉を得ましたのは幸運だったと思います。名誉を傷つけないようにしたいと覚悟しております」。
同誌ではこの大会の分析として、予選通過者43人を対象にした各ホールでの平均スコアを算出し、陳と浅見のプレー内容の比較なども行っている。今のツアーでは普通に得られるスタッツではあるが、当時は全員のスコアカードを見ながら手作業での算出だった。大会のデータ分析の重要性が見いだされた時期だったのだろう。
(文責・赤坂厚)
プロフィル
陳清水(ちん・せいすい)1910(明治43)年1月25日~1994(平成6)年1月8日。台湾出身のプロゴルファーの草分け。淡水GCでキャディーを経てプロとなる。1927(昭和2)年、野村駿吉(後の日本ゴルフ協会副会長)らに才能を認められて程ヶ谷CC(神奈川県)で修業のため来日。浅見緑蔵に7カ月ほど学んだ。その後再来日して日本に定住し、トッププロに成長する。1935年に米国遠征メンバーに選ばれ、全米オープンにも出場した。同年末に戸田藤一郎と再渡米し、翌年にかけて各地を転戦、4月に戸田とともにマスターズにアジアの選手として初めての出場し、20位に入っている。1937年日本オープン優勝、日本プロは2度(1942、53年)制した。陳清波ら来日した台湾出身の後進の育成にも尽力した。1973年、日本に帰化。
第10回日本オープンゴルフ選手権
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 陳 清水(武蔵野) | 284 | = 69 77 68 70 |
2 | 浅見 緑蔵(程ヶ谷) | 291 | = 72 73 75 71 |
3 | 林 萬福(東京) | 295 | = 77 73 73 72 |
4 | 小池 国喜代(霞ヶ関) | 299 | = 78 71 75 75 |
5 | 発智 恭次(霞ヶ関) | 302 | = 76 78 72 76 |
6 T | 樫 国秋(霞ヶ関) 石井 治作(広野) |
303 | = 77 75 75 76 = 73 79 76 75 |
8 T | 延 徳春(京城) 藤井 武人(霞ヶ関) |
305 | = 78 78 76 73 = 73 75 77 80 |
10 | 鍋島 直泰(東京) | 307 | = 75 79 74 79 |
参加者数 78名(アマ28名)